うなづき症候群の研究と支援
科学研究費補助金「ウガンダ農村社会で生活するてんかん患者とその家族のための包括的ケアのモデル構築」ウェブページ
科学研究費補助金「ウガンダ農村社会で生活するてんかん患者とその家族のための包括的ケアのモデル構築」ウェブページ
2013年までの約十年間にわたり、ウガンダ共和国の北部に暮らす子供たちの間で、未知のてんかん性脳症の流行がおきた。患者は進行性の脳神経障害を患っており、種々の発作に加えて発育遅滞や知的障害、運動障害といった症状をともなう。うなづき症候群と名づけられたこの病気は、3000人を超える患者が確認されている。
この地域は1987年から2007年頃まで、ウガンダ政府軍とこれに敵対する武装組織「神の抵抗軍」との間で戦われた極めて凄惨な紛争を経験した地域である。長い紛争から立ち直ろうとしている社会にあって、うなづき症候群の流行は理不尽な苦しみである。
また多くの患者は現在、発症から十年以上を経て成年期にさしかかっている。彼らは毎日の生活上の困難もさることながら、将来の人生にも少なからず不安を抱えている。
うなづき症候群は、寄生虫オンコセルカへの感染にともなう神経症状の一種だと考える研究者もいる(国際的なネットワークを参照)。この寄生虫が棲息するアフリカの河川沿いの地域では、寄生虫の負荷に対する住民の脆弱性を高めるような複数の要因が同時に作用したときに、てんかん性脳症の流行がおきる場合がある。
科学研究費補助金「ウガンダ農村社会で生活するてんかん患者とその家族のための包括的ケアのモデル構築」に参画する研究者は、次のふたつのことを目標としている。ひとつには、流行の背景にある紛争や生態環境の変化といった複合的な要因を理解することである。もうひとつは、患者とその家族を支えるケアの環境を理解することである。
人の一生は、生態および社会的な環境との相互作用の中で展開する。アフリカの農村において、脳神経障害を抱えた人たちは、どのようにして価値ある人生を実現するのかを問い続けたいと私たちは考えている。
私たちの研究は、日本とウガンダの研究者が共同で2013年に結成したうなづき症候群対策ネットワーク (Uganda-Japan Nodding Syndrome Network) の活動の一部でもある。
このネットワークは、人類学者や地域研究者、健康・医学系研究者ら異なる専門分野の人たちが学際的に協働し、患者と家族のおかれた現状を理解し改善していくための対策を考えることを目的としている。
現在のおもな活動は、国際的な研究ネットワークと連携すること、てんかん患者に対する既存の支援手法から学ぶこと、および現地の患者家族による自助組織と協力することである。将来的には、ウガンダ北部地域の保健医療システムの不足を補う、コミュニティに根差した多面的な支援モデルを確立することを目標としている。
うなづき症候群対策ネットワーク(フェイスブックのページ)
https://www.facebook.com/894457383908158/
うなづき症候群は、タンザニアや南スーダンといった国々でも症例の報告がある。また寄生虫オンコセルカへの感染が原因とみられるてんかん症(オンコセルカ症関連てんかん)は、他のアフリカ諸国にも広く分布していることが疑われている。
2017年10月には、ベルギーのアントワープ大学においてオンコセルカ症関連てんかんに関する第一回国際ワークショップが開かれ、さまざまな分野の研究者による国際的なネットワーク Onchocerciasis-Associated Epilepsy (OAE) Alliance が立ち上げられた。
https://www.uantwerpen.be/en/research-groups/oae/oae-alliance/
私たちは、このネットワークに設立当初から参画し、アフリカや欧米の各国の関係者との研究知見の共有に努めている。またウガンダのマケレレ大学に所属し、NS研究に中心的な役割を果たしている小児神経科医の Richard Idro氏の研究チームとも協力関係にある。
てんかん患者とその家族に対する既存の支援手法から学ぶことは、私たちの重要な課題のひとつである。例えばMOSES(Modular Service Package of Epilepsy)は、ドイツで発祥したてんかんのある人のための学習プログラムである。
入院あるいは外来患者が数名の小グループを作り、専門知識をもつトレーナーの指導の下、それぞれの体験を交換し、共感し、どのようにてんかんに取り組んでいくかを考える。参加者はてんかんに対する感情や、問題を克服した経験を分かち合ったり、発作を振り返ってその要因を理解し、どう対処するかを考える。てんかん患者は人前で発作を起こすことで負い目を感じやすく、偏見に晒されやすいため、患者同士の話し合いが大きな助けとなる。
もちろん、ドイツや日本とは生活環境が大きく異なるアフリカ農村に、MOSESをそのまま導入することは難しい。それぞれの社会の文脈に沿ったプログラムの開発が必要である。
うなづき症候群対策ネットワークは、ウガンダ北部の村で患者の家族が結成した自助組織の活動に協力している。この組織は、うなづき症候群流行地の村で生活する数十世帯の家族が2013年に結成したもので、Alliance for Community of Nodding Syndrome (ACNS) と名づけられた。
ACNSが最初に取り組んだのは、畑の共同耕作である。収穫物の販売によってACNSの活動資金を確保することに加えて、一緒に作業をおこなう中でメンバーが経験を共有し、互いに関わりを深める場となっている。
また2018年からは、NPO法人アジア保健教育基金の支援を得て、患者の生活環境を改善する取り組みも実施している。患者の継続的な服薬を可能にするための仕組みづくりや、患者が安心して日常生活を営むための環境づくりに取り組んでいる。
事務局:
〒852-8521 長崎市文教町1-14
長崎大学多文化社会学部 佐藤研究室内 うなづき症候群対策ネットワーク
unaduki.syndrome[at]gmail.com
*[at]は@に変換してください